稚内層珪質頁岩の説明
稚内層珪質頁岩は、自然素材でありながら調湿機能を持ち合わせていることから、これまで主に住宅用建材(壁材)に使用され、最近では消臭製品などの日用品にも用いられるなど、その機能を活かした商品が作り出されています。
一般的には稚内珪藻土とも言われていますが、学術名は“稚内層珪質頁岩”です。
稚内層珪質頁岩は、深い海の中で繁栄した微細なプランクトンである珪藻の遺骸(シリカ-SiO2が主成分、非晶質シリカ)が、新第三紀中新世後期(約1,200万年前~約700万年前)に堆積し、次第に圧密を受けて地層中の非晶質シリカ(オパールAという)がオパールCTの一部に変化することによって形成されました。
北海道立地下資源調査所(現北海道立総合研究機構地質研究所)が実施した調査によると、稚内層珪質頁岩は稚内を中心とした道北天北地方に多く分布しており、東は浜頓別町、南は豊富町、幌延町、天塩町をはじめ、初山別村の一部にまで分布しています。
なお、稚内層珪質頁岩(硬質)の上位には声問層に属する軟質な珪藻質泥岩(または珪藻土ともいう)が分布します。珪藻土は一般的には七輪や窯業原料として使用されることがあります。
稚内層珪質頁岩の特長
鉱物の中には、細孔を有している物質が多くあります。秋田・石川・岡山・大分・鹿児島等で産出される他地域の珪藻土は非晶質シリカ(オパールA)からなり、半径が50nm(ナノメーター:1nmは100万分の1mm)以上の大きな細孔(マクロ孔)を主とし、これに対しゼオライトは1nm以下の小さな細孔(マイクロ孔)を持っています。 稚内層珪質頁岩は、これらの鉱物の中でも、とくに1~10nmの細孔(通称:メソ孔)を多く有しており、3次元的に広がる均質で多孔質な構造を有しています。
稚内層珪質頁岩の優位性
室内の湿度をコントロールするためには、電気を使用せず、壁の素材が自らの能力によって水蒸気を吸着し、また放散することが重要です。日本古来の木材などはその典型的な材料です。
一方で、塗り壁材やタイル材として稚内層珪質頁岩を使用することにより、調湿機能が得られることが約20年以上前に北海道立工業試験場(現北海道立総合研究機構工業試験場)と北海道立地下資源調査所(現北海道総合研究機構地質研究所)の共同研究で明らかにされ、以来、この機能を用いた製品が多く製造されてきました。調湿機能を発現するためには約1nm~10nmの細孔(メソ孔)が重要とされています。
つまり、室内の湿度をコントロールするためには、室内の湿度が高くなったときに上記のメソ孔が水蒸気を吸着し、乾燥した(湿度が下がった)時にはメソ孔から水蒸気が放出されることが必要です。稚内層珪質頁岩は上記の機能が電気を使用しなくとも発揮され、室内の湿度が60~70%程度に維持することができる材料です。下図に稚内層珪質頁岩の水蒸気吸着と脱着(水蒸気の放出)の基本的な実験データを示しました。
また、稚内層珪質頁岩は他の原料と異なり、一定温度までの焼成によってもその性能が維持されるという優れた性能を有します。また酸性環境に強く、一般的な酸性の薬品処理によっても調湿機能が低下することはありません。
図に稚内層珪質頁岩を焼成する前と、焼成後の細孔の基本性状の変化について示しました。
これまでの北海道立工業試験場(現北海道立総合研究機構工業試験場)と北海道立地下資源調査所(現北海道総合研究機構地質研究所)の研究では約950℃以下では調湿機能を保ったままタイルなどに加工することができることが確認されています。
人と環境に優しい稚内層珪質頁岩
稚内層珪質頁岩が持つ機能は、我々が生活する上で非常にメリットのある自然素材であることが伺えます。 前述のとおり、稚内層珪質頁岩は調湿機能によって室内環境を改善することにより、人体に優しい生活空間を作ってくれます。稚内の新たな産業構築へ
これまでは、窯業(セラミックス)の盛んな岐阜県(多治見)や愛知県(瀬戸)等の企業を中心に、稚内層珪質頁岩を利用した製品が数多く作られ販売されてきましたが、現在は、市内事業者が加工から製品化・販売する動きもあり、また、他素材との配合による新製品開発の取組みも行われています。 今後、稚内を代表する新たな産業を興す可能性を秘めた素材であることが十分に見込まれています。
活用事例
●稚内層珪質頁岩で作られた主な商品・調湿建材(内装壁材)
・コースター、バスマット等、タイル製品 など
●稚内層珪質頁岩が使用されている主な施設
・稚内市立図書館
・稚内市南地区地域活動拠点センター
・特別養護老人ホーム、高齢者住宅
・曹洞宗大本山永平寺宝物殿(福井県)
・鶴雅リゾート 森の謌(支笏湖) など